ピンポーン。

「はーいっ」

玄関のドアを開けると、ぴゅうっと冷たい空気が一気に流れ込んできた。

「いらっしゃい、朝霧くん」

「おじゃましまーす」

さあどうぞとリビングに案内された。

12月になり、外は冬の寒さを増しているが部屋の中は暖房がよく効いているようだ。

「その辺に座ってー。あ、飲み物はコーヒーでいいかな?」

「悪いな」

リビングに座ると、ふと前に置かれたグランドピアノが目に入った。

思わずじっと見つめてしまう。

「おーい、朝霧くーん。もしもーし?」

と、目の前を翠の手が遮った。

「ご、ごめん」

「そんなー謝ることないよ」

テーブルにコーヒーカップを置くと、隣に腰掛けた。

「そんなにあのピアノが気になる?」

「そりゃあ、やっぱり」

翠の両親を、翠を会わせるために、そして翠のクラリネットを聴いてもらうために。

無我夢中に、ただ思うがまま走って走って・・・・

こんな事を話しているのも今では懐かしく思う。

とてもとても、遥か昔のことのようだ。

「なんか無茶したなあ」

「朝霧くんったら、いきなり飛び出しちゃって。ホントにびっくりしたよ」

「でもやってよかったなあと思ってる」

「うん・・・・ありがとう」

「自分だけじゃ、絶対無理だって思ってた」

「それを叶えてくれたのは・・・朝霧くんだよ」

「いや、俺なんてちょっときっかけを作っただけだよ」

「その後は遠山が自分で切り開いたんだ」

最初は緊張が取れなくて音色を出せなかった翠。

きっと過去の自分と対峙していたのだろう。

自分のクラリネットにすら触れることなくただ塞ぎこんでいた過去とその自分に。

でもそれを打ち破り、確かにあの日の「家族」を取り戻した。

翠の嬉し涙をただずっとフィーナと眺めていたっけ。

「朝霧くん・・・」

「素敵な演奏会に招待してもらって嬉しかったよ」

「そ、そんなあ・・・音もバラバラだったのにぃ・・・」

「せっかくならもうちょっといいコンディションで聴いてほしかったな」

「じゃあ、今から聴かせてよ」

「えっ・・・・ええええっ!?」

「そこにクラリネットもあるじゃないか。さあさあ〜」

俺は翠の手を掴むとやや強引に譜面台のところまで連れて行った。

「こ、困ったなあ・・最近練習してないのに〜」

「それでは遠山翠さん、よろしくお願いしまーす」

パチパチパチ・・・

リビングに俺の拍手が響き渡った

「あ・・・あんまり見ないでね」

はあっ、と一息つくとクラリネットに口をつけた。

・・・

・・・・・・

〜♪

演奏してくれたのは、あの時に吹いた曲だった。






「・・・・・くん」



「・・・・もおっ」

??

「・・ほらっ、起きてよぉー」

演奏の途中にすっかり寝てしまったらしい。

「演奏中に寝ちゃうなんて、ちょーっと失礼なんじゃありませんか?」

「ごめん」

「分かればよろしい」

「どうも寝るクセがついちゃったみたいだな」

「あー。麻衣もそんな事言ってたなあ〜フルートの練習に行くといつも寝ちゃうって」

「いや、あれは土手に寝転がると気持ちいいから」

「はいはい。さ、そろそろ2階に上がろっか」

すっかり冷めてしまったコーヒーを片付けると、先に行っててと促された。

翠の部屋は2階にある。

こんなでかい家だが、実際1人で住んでいるようなものだから、部屋として使ってるのも

この部屋と台所くらいなのだろう。

適当に座っていると、コンコンとノックする音がした。

「ごめーん、手が塞がってて。開けてくれる?」

立ち上がってがちゃ、と扉を開けると・・・

パーン!

パンパン!!

「メリークリスマース!!」

俺の前でクラッカーが炸裂した。

そしてサンタクロースの衣装を身にまとった翠が立っていた。

「サンタクロースがクリスマスプレゼントを持ってきましたよー」

「遠山・・・その格好は・・・」

「せっかくのクリスマスだし、買ってきちゃった」

「えへへー。どう、似合うかな?」

くるっと一回りする。

・・・・ん?

今なんかスカートの奥が・・・?

「じゃーん!!」

「クリスマスと言えばクリスマスケーキ!」

「ほーら、この遠山様の手作り生クリームケーキだぞ〜ほれほれっ!」

目の前にホールケーキが差し出された。

どうやらこれは全部食べないといけないようだ。

テーブルにケーキを置くと、ローソクを挿し、灯りを灯す。

ぱちっと部屋の電気を落とすと、辺りがローソクの火でオレンジ色に変化して、

なにかとっても暖かい気持ちに包まれる。

「・・・なんかとってもいい雰囲気だね♪」

「というか、クリスマスケーキってローソクなんて立てるんだっけ」

「もう、こういうのは気分気分」

そうこう言っているうちにそろそろローソクのロウが垂れかかってきた。

ケーキに落ちるとやっかいなので、消さなくては。

「じゃ、せーので消すよ?」

「分かった」

「1、2、せーのっ」

ふーっ。

辺り一帯が真っ暗になる。

「じゃ、ケーキ食べようか」

と、立ち上がろうとすると手をぐっと掴まれて引き戻された。

「わ、わわっ」

どさっ、とソファーにもたれ掛かると背中から別の感触を感じた。

「朝霧くん・・・」

「と、遠山・・・」

「ちょっとこのままで・・・いさせてくれる?」

そう言うと遠山は俺に寄り添うように体を預けてきた。

「あのね・・・私、朝霧くんに本当に感謝してるんだ」

「この前の演奏会のこともそうだけど、私っていつもこんなカラ元気やってるから、

本当の自分っていつもどこか片隅に置きっぱなしで・・・・」

「でもね、朝霧くんはそんな私に手を差し出してくれたんだ」

「それからはもう、当たって砕けろのノンストップな毎日で、ドキドキで・・」

「こんな気持ちになったのも今までなかったんだよ?」

「だから・・・・今日は」

「朝霧くん・・・ううん、達哉にクリスマスプレゼントをあげる」

そういうとさあっ、とカーテンを開けた。

部屋の中が月明かりに照らされて青白く変化する。

その前で翠は、生まれたままの姿になっていた。

その下の床にはサンタクロースの衣装が脱ぎ散らかっていた。

やはりサンタクロースの衣装の下には、何も着けていなかったらしい。

突然の光景に思わず目を疑ったが、視線が翠から離れることができない。

「達哉・・・・来て」

「遠山」

「んんっ、みどりんって呼んでっ・・・・」

「分かった。みどりん、プレゼント大事に頂くよ」

「ありがとう・・・・」




「達哉の白いので、いっぱーい私をデコレーションしてね・・・」


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